大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和46年(く)21号 決定 1971年12月08日

少年 W・G(昭二八・八・一三生)

主文

原決定を取り消す。

本件を福島家庭裁判所に移送する。

理由

本件申立の趣意は、要するに少年を中等少年院に送致じた原決定の処分は著しく不当であるから取消を求めるというにある。

よつて、一件記録および当審における事実調査の結果に原判決が認定した本件各犯行の態様、回数からすれば少年の犯罪的危険性は軽視できない。しかし、少年の資質、ことに知能が普通域にあること、性格的にも在宅のまま矯正しうる可能性のあること、少年は過去の生活、犯行について現在反省していることを考えると在宅保護も十分考えられるところである。

そこで少年の環境および社会資源について考えると、少年は昭和四五年頃から年上の女性と同棲し、スナック喫茶のバーテン等をして水商売にはいり、女性関係にも問題があるなどし生活面に乱れが目立ち、交友関係も良好といえず相次いで本件各犯行をおかしている。一方、被告人の父兄は本件前は少年の保護について積極的な姿勢を示さず、少年のなすがままに委せていたところ、本件審判を契機として、その態度を変え少年との精神的交流を求め、同棲していた女性に絶縁を求める書信を出してその承諾を得、少年の稼動先を探し、少年の少年院入院後、福島県いわき市の電気、ガス器具販売業を営む少年のいとこの嫁入先であるN・K方に就職できることになり、高等学校教員をしている兄と共に下宿するか、勤め先に住込むかする見通しのもとに、少年の更生をはかるべく努力しており、少年との間にも心の交流ができはじめたことが認められる。

以上のような事情からすると、現在においては少年を在宅のまま保護することに重大な障害は除去されつつあるものと認められるのであつて、結局、原決定の処分は著しく不当であるものと認められ、この点において原決定は取消を免れない。

よつて、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により、少年の保護者等の住居地を考慮して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山田瑞夫 裁判官 阿部市郎右 大関隆夫)

参考一 昭和四六年一〇月一四日付法定代理人親権者父抗告申立書

抗告の理由

このたびの審判は上記少年の犯した行為に対する社会的責任もさることながら今後の少年の更生ということを十分に考慮した誠に御厚情あるものと思います。

今回の少年の不詳事の大きな原因の一端は年の隔つた女性との同棲、反社会的組織に属する人とのつながり等、その乱れた生活と好ましからぬ人間関係にあるとし、それらの悪環境を根本的になくさぬ限り少年の更生は枯れない。そのためには時間をかける必要があるとの見方から今回の少年院送致という保護処分になつたものと思います。しかし、それだけが少年の陥つている好ましからぬ人間関係から少年を抜け出させるための、又少年の将来にとつての最良の方法とはどうしても納得出来ません。少年と同棲している女性も少年及び本人の将来ということを話したところ、彼が更生し落ち着いた生活を取り戻すためなら今後少年との一切の接触を断つと約束しております。又今回の事件での共犯者は自分の犯した犯罪に少年を巻き込んだことを十分反省し、少年の処分を大変心配しており今後少年との関係云々ということはないと発言していると聞いております。少年自身も今迄の生活を心から反省し更生意欲に燃えております。又保護者も少年が更生するまで、より以上に暖かく又厳しく見守り必ずや更生させたいと考えております。そして最大の努力をいたす所存です。出来ますれば保護観察処分にしていただき、本人の将来と覚悟の程をくみとりもう一度立ち直る機会を与えて下さるようお願いいたします。尚保護者側の具体的な考えは只今本人との話し合いの期間がありませんので次の二通りを考え少年の希望に合せたいと思つております。

一 理容学校の件で見習い修業する職場をいわき市○○○○○○○、○田○氏を仲に、同市×丁目○根○容○に話を進めております。

二 夜間高校の件でその職場又それまでの期間長男、長女○子が少年たちの従姉のいわき市○○○○○○の○野○店に話を進めております。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例